発売されたのが昨年の2月2日ですので、1年以上も読まれ続けるような一冊となっていることは、ご支持をいただいております、読者やフォロワーの皆さんのおかげと感謝しております。本当にありがとうございます。
さて、拙著で紹介した永久保有の17銘柄について、決算が出そろっていますので、雑感を記載していきたいと思います。あわせて、データをアップデートしましたので、掲載させていただきます。
全体的には、ここのところのレンジ相場が反映されて、バリュエーションが一定のレンジに収束していっているという印象を受けました。個別銘柄では、業績の好不調が株価に反映されますので、一つ一つ確認して、自分の納得できる株価水準で買うことが必要だと考えます。それでは、個別に見ていきます。
〇 INPEX
過去5年のPERレンジは4.6倍~117.5倍 現在の予想PERは6.99倍
予想EPSは207円と前期と比べ大幅に減少しましたが、それでも配当は増配し株主還元意識の高さを示してくれました。株価は一時と比べると割高に感じるかもしれませんが、指標的には割安で、国際情勢を見極めた上で、原油価格が現在の水準を維持するか否か、この点が投資判断を分けることになります。ただ、配当利回りも高く、1株ずつ投資していくのであれば、問題はない株価水準だと考えます。
PBRレンジは、0.25倍~0.75倍、現在は0.50倍。割高とは言えないものの、注視が必要と考えます。
〇 JT
過去5年のPERレンジは、9.8倍~16.4倍 現在の予想PERは11.28倍
配当性向75%をシビアに履行してくるだろうと考え、減配懸念がありましたが、今期の配当予想は維持となりました。株価はボトムを見ている投資家にとっては高くなったと感じますが、現状どうか、今後どうなるのか、最悪を想定するとどうなりそうか、という視点が必要です。現在の配当利回りは6.72%、これはロシア事業等の不安要素を織り込んでいます。ロシア事業は利益の約2割ですので、最悪これがなくなったとして、今期予想EPS248円×0.8=198円、配当性向75%なので、198円×0.75≓148円。150円程度の配当が最悪とするならば、現在の株価2796.5円であれば、配当利回りは5.36%となります。長い目でみればこれは悪くはありません。
〇 花王
過去5年のPERレンジは19倍~30倍 現在の予想PERは26.83倍
花王は原材料価格の高騰を値上げで吸収しきれずに苦しんでいます。なかなか投資しづらい状況とは言えますが、連続増配は継続するでしょうし、過去に苦しい時期があったことも知っていますので、いずれは成長路線に戻してくれると考えます。その意味では、配当利回りが3%程度あれば、1株ずつ買い増していって問題はないと考えます。
〇 アステラス
過去5年のPERレンジは13倍~23.5倍 現在の予想PERは23.17倍
株価も安定しており状況に変化はありません。配当利回りが3%を超える水準、つまり株価が2,000円を下回った時に1株ずつ積み増していれば問題はないという認識です。連続増配中ですので、3月の決算では、少額でも増配があるのではと期待しています。
〇 大塚ホールディングス
過去5年のPERレンジは12.1倍~30.1倍 現在の予想PERは14.28倍
状況に変化はありません。指標的に割高感はなく、配当も安定しています。業績もよくなってきているため、そろそろ増配路線に移行してもよいのではと思いつつ、配当は動かざること山の如しで100円継続です。もう少し株価が下がり、配当利回りが上昇した時に狙いたいところですが、現在の株価水準はフェアバリューだと感じています。大塚HDの株主優待は魅力的ですので、1株ずつ積み上げて100株保有して優待をもらうのもありだと思います。
〇 ブリジストン
過去5年のPERレンジは9.1倍~15.4倍 現在の予想PERは10.66倍
原材料価格の高騰で業績悪化と減配を懸念していましたが、業績は堅調で増配が発表されました。バリュエーション的には問題はないものの、株価は過去最高付近にあり、何か突発的なイベントで株価が下がるのをじっと待っておきたいと思います。
〇 コマツ
過去5年のPERレンジは7.9倍~41.3倍 現在の予想PERは10.38倍
業績は好調です。配当利回りも高く魅力的に映ります。ただ、景気敏感株のためリセッション時にはバリュートラップに巻き込まれる可能性があることは頭に入れておきたいところです。コマツやブリジストン等の景気敏感株の絶好の買い場は業績が悪化して減益や赤字、減配と悪い状況が重なり株価が暴落した時ですので、今後、しばらくはチャンスを待つ展開となるかもしれません。
〇 クボタ
過去5年のPERレンジは9.8倍~24.9倍 現在の予想PERは13.04倍
前期は減益となりましたが、今期は増益予想で業績は概ね堅調と言えます。実質累進配当であり自社株買いも積極的であること、今期もおそらくは増配となるであろうこと等を勘案すると、現在の株価水準であれば1株ずつ積み上げられると認識しています。
〇 三菱商事
過去5年のPERレンジは5.5倍~24.2倍 現在の予想PERは5.99倍
業績は絶好調で大幅な増配を発表しました。ただし、為替・資源ボーナスの影響が大きいことから今後の業績の推移には注視が必要です。累進配当銘柄のため、現在の配当利回りで満足できていれば1株投資で株数を増やしていくのもありだと思います。PBRは0.86倍で、三井物産の0.98倍、伊藤忠商事の1.27倍と比較して割安であり、この点、中長期的には1倍に向かって収束していくような感じがしています。
〇 三井物産
過去5年のPERレンジは5.5倍~19.3倍 現在の予想PERは5.66倍
業績は好調です。増配と自社株買いも発表しています。ただ、資源価格の影響を大きく受けるため、ほんの数年前までは資源一本足と揶揄されていたことを忘れてはならないと考えます。三菱商事と比較して、指標的にはもうすこしディスカウントが欲しいところです。
〇 伊藤忠商事
過去5年のPERレンジは5.4倍~13.5倍 現在の予想PERは7.52倍
非資源に強みがあり、相対的には業績に安定感があります。業績の安定性を重視するのであれば、現在の株価水準でも十分にフェアと言えるでしょう。配当利回りが3.5%前後を目安に株数を増やしていければ問題はないでしょう。
〇 三菱UFJフィナンシャル・グループ
業績非開示のためSBI証券のアプリでは予想PERの推移が確認できません。
SBI証券で算出された予想EPS83.1円に対する予想PERは11.59倍と、もはや安いとは言えなくなりました。株価が下落するか、業績が向上するか、買える水準になるまでしばらく様子見となりそうです。
〇 三井住友フィナンシャルグループ
過去5年のPERレンジは5倍~14.9倍 現在の予想PERは10.4倍
MUFGと同様に株価は上昇してしまい投資妙味はかなり減退してしまいました。株価が下落するか、業績が向上するか、買える水準になるまでしばらく様子見となりそうです。ただし、現在の株価水準でも配当利回りは3.93%あり、累進配当を公言し長期保有するのに安心感があるため、現在の配当利回りをどう捉えるかで投資判断は分かれてくると思います。
〇 日本取引所グループ
過去5年のPERレンジ18.1倍~37.9倍 現在の予想PERは23.49倍
配当予想が上方修正されました。今期の62円の配当予想となりました。おそらく3月決算では保守的に配当予想をだしてくるので、52円~54円程度へ減配予想となるのではと考えています。不足の事態が起きなければ、また1年後には配当予想を上方修正するでしょうから、株価が2,000円を切った時に1株ずつ投資していけば、長い目で見てある程度の安全域は確保できると考えます。
〇 東京海上ホールディングス
過去5年のPERレンジは9.1倍~22.1倍 現在の予想PERは15.83倍
損害保険という業界の特性上、災害が発生するとその規模に応じて一過性の利益は圧縮されます。とは言え、長い目でみれば、そのような状況を鑑みても利益は積み上がっていきますので、配当利回りに納得できるのであれば、1株ずつ株数を積み上げていくのに問題はないと思います。普通配当は上場以来減配されたことはなく、実質累進配当となっています。
〇 NTT
過去5年のPERレンジは9倍~12.9倍 現在の予想PERは11.73倍
状況に変化はありません。業績は堅調かつ堅牢で何の問題もありません。中期経営戦略における2023年度の一株利益の目標は370円であること、業績の推移から次期も増配がほぼ確実ですので、そのあたりを勘案しつつ投資を検討したいところです。NTTのような業績が安定している銘柄は、個人投資家にとっては、バリュエーションを見積もりやすいという、投資する上で大きなメリットがあります。つまり、自分の描いたシナリオと、これから起こる事象との振れ幅を小さくでき、割安の判断が相対的に容易におこなえるということです。このような特性をもつ銘柄の株価が大きく下落した時は、大きなチャンスとなります。
〇 KDDI
過去5年のPERレンジは9.1倍~14.9倍 現在の予想PERは12.85倍
業績は安定しています。2024年3月期の目標EPSが389円となっていることに留意しつつ、投資判断をおこないたいところです。連続増配銘柄ですので、3月の決算では増配があると考えられます。
以上、17銘柄の雑感です。
過去5年程度のPERレンジとPBRレンジを確認して、現在の数値と比較して低い水準にあるかチェックするだけでも負ける確率はかなり減らせるはずです。また、連続増配銘柄か、EPSは成長しているか、配当利回りに納得できるか、等々、モノサシを増やしていくことで投資の精度は向上していきます。ぜひ活用してみてください。
○ その他
ニュース等でも話題になりましたが 「PBR1倍を割れている場合には十分な対応が求められる」 ことになります。
数ヶ月単位では株価にさほど影響はないかと思いますが、数年単位で考えた場合にはかなりの影響があるのではと感じています。日本のマーケットでは異常値とも言える割安銘柄がゴロゴロしていますが、上場企業はこれを是正していく必要に迫られることになるかもしれません。
日本株全体の底上げにつながりますので、嬉しいニュースです。ただ、個人投資家としては単に喜んでいるだけではなく、この機会をどう活かすかという視点も必要でしょう。財務余力があり、PBRが1倍を下回っている企業は株価を上げるために色々と手を打ってくると思いますので、今後しばらくは、そういう銘柄へ優先的に投資していきたいと思います。
単にPBRが低いからよいというような単純な話ではなく、資産の中身を財務諸表やIR資料等から読み解いていく必要があります。精査が必要となりますが、PBRの視点から株価が上昇するまでにはしばらく時間的な猶予もあると思いますので、低PBR戦略にはじっくりと取り組んでいきたいと考えます。
ブログで記載しきれないこともつぶやいていますので、興味のある方はフォローいただければ幸いです。
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